「キャッシュレス決済比率が42.8%から58.0%になった。1年で15.2ポイントも伸びたらしい」。ネットでこんな説を見かけました。こうして並べると、ガチで急加速したように見えます。
正直に書くと、筆者も最初はそのまま受け取りかけました。ただ、この2つの数字は同じものさしで測られていません。今回は筆者の勘違いから始めます。続いて分母の話をして、最後にキャッシュレス決済の種類ごとの動きへ進みます。
「1年で急加速した」説に乗りかけた筆者
筆者は以前、ある決済サービスの「利用者急増」という話を信じて、自社での導入を提案したことがあります。あとで確かめると、比べていた数字の分母が違っていました。増えたように見えた理由は、中身ではなく数字の土台の違いにありました。
それ以来、比率を見たらまず分母を確認するようにしています。42.8%と58.0%を見たときも、真っ先に経済産業省の算出方法の説明を読み直しました。
「42.8%と58.0%は同じ指標」説を検証する
結論から書くと、別の指標です。2024年分として公表された42.8%は従来の比率で、分母は内閣府の民間最終消費支出(名目)です。
一方、2025年の58.0%は新しい国内指標です。分子はクレジットカード、デビットカード、電子マネー、コード決済の取扱高の合計です。分母には、民間最終消費支出から持ち家の帰属家賃を除いた額を使います。分母が小さくなれば、同じ決済額でも比率は高く出ます。つまり15.2ポイントの差には、決済の伸びと指標の切り替えが混ざっています。そのため、そのまま普及の前年差としては扱えません。
比べやすいのは分子の決済額のほうです。2024年の141.0兆円に対し、2025年は162.7兆円で、21.7兆円増えました。こちらは素直に「増えた」と言えます。
もう一つ押さえておきたいのは、この比率が金額ベースだという点です。支払い回数に占める割合でも、使っている人の割合でもありません。
「どの手段も同じように伸びている」説
次に中身を種類別に見ます。その前に、分け方を整理しておきます。経済産業省は、キャッシュレスを「紙幣や硬貨を使わなくても活動できる状態」と定義しています。消費者庁のキャッシュレス決済調査結果では、支払う時期によって前払い・即時払い・後払いの3つに分けています。
ややこしいのがQRコード決済です。チャージして使えば前払い、銀行口座直結なら即時払い、クレジットカード連携なら後払いになります。「QRコード決済は何払い?」と聞かれたら、答えは「資金源次第」です。
| 項目 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|
| コード決済 | 13.5兆円(9.6%) | 16.6兆円(10.2%) |
| 電子マネー | 6.2兆円(4.4%) | 6.0兆円(3.7%) |
| キャッシュレス決済額の合計 | 141.0兆円 | 162.7兆円 |
出典:経済産業省「2024年のキャッシュレス決済比率を算出しました」「2025年のキャッシュレス決済比率を算出しました」。括弧内はキャッシュレス決済額に占める構成比
金額の中心は今もクレジットカードです。2025年は134.6兆円で、全体の82.7%を占めます。伸びが目立つのはコード決済で、1年で3.1兆円増え、構成比も上がりました。反対に、電子マネーは金額も構成比も下がっています。
電子マネーの減少は、別の統計でも確認できます。日本銀行の決済動向で対象8社のプリペイド型IC電子マネーを見ると、2025年は決済件数が前年比3.4%減、金額が3.0%減でした。全体が伸びていても、すべての手段が一律に伸びているわけではありません。
「使っている人」で見ると景色が変わる説
金額とは別に、利用者の割合を測る民間調査もあります。インフキュリオンの決済動向2025年調査(2025年6月発表、全国16〜69歳2万人)では、コード決済アプリの利用率が72%で過去最高でした。対面決済での利用は57%、非対面決済での利用は27%です。
決済額の構成比では約1割にとどまるコード決済が、利用率では7割を超えます。データで見ると、同じ「普及」でもものさし次第でここまで印象が変わります。
MMD研究所の調査(2025年2月公表、18〜69歳2.5万人)からは、年代差も見えてきます。
- 現金:全体77.0%、年代別の最高は10代の83.0%
- クレジットカード:全体57.0%、最高は60代の69.4%
- QR・バーコード決済:全体46.7%、最高は40代の49.5%
- 非接触電子マネー:最高は60代の38.9%
利用率が最も高い年代は、手段ごとに違います。「若い人ほどキャッシュレス」とひとまとめにはしにくい結果です。
筆者が落ち着いた見方
ここまでをまとめると、キャッシュレス決済の普及は、少なくとも3つのものさしに分けて読むと整理しやすくなります。
- 決済額と決済比率:金額で見た広がり。年ごとに比べるときは分母の定義をそろえて見る
- 手段別の構成比:どの種類が伸び、どの種類が縮んでいるか
- 利用率:どれだけの人が使っているか。調査ごとに対象年齢や人数が違う
冒頭の説に戻ります。「決済額が1年で21.7兆円増えた」とは言えます。一方で「比率が1年で15.2ポイント伸びた」は言いすぎ、というのが筆者の読みです。なお、政府は2030年の中間目標を国内指標で65%としています。今後の推移は、国内指標同士で追っていくことになりそうです。
次回は「コード決済は件数で見ると存在感が大きい」説
決済比率は金額ベースなので、件数の動きは映りません。そこで次回は、キャッシュレス推進協議会のコード決済利用動向調査を使います。この調査は、対象13社の店舗利用金額や件数などを半期ごとに集計しています。直近の2025年7〜12月期分は、2026年3月30日に公表されました。
金額では約1割のコード決済が、件数で見るとどう映るのか。土曜の午前に数字を並べて検証してみた結果を、次回お届けします。